認知症

病態

認知症

 記憶したり、考えたり、判断したり、人と対応するといった日常生活に欠かすことができない能力を認知機能といいます。
 認知症は、神経細胞の変性・脱落、脳血管障害、脳腫瘍、感染症、その他身体疾患等の後天的原因で、認知機能が著しく障害されてしまった状態です。

診断、症状、経過、治療

 診断は、経過、症状、認知機能検査、画像診断等を総合して行います。
 認知症の中心となる症状は認知機能の障害であり、その主な症状は記憶障害です。
 現時点では、ほとんどの認知症は根本的に治すことが期待できません。
 身体疾患等が原因で起こる二次性認知症の一部は、原疾患を治療することで治癒が期待できますが、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症等では、様々な治療法により進行を抑えることができるのみです。
 よって、認知症の治療は、薬物療法によって進行を遅らせながら、心理社会的治療を行うことで、不安・抑うつ症状の改善、意欲・集中力の向上、対人交流の円滑化を図り、生活の質を低下させないケアが主体となります。
 認知機能の低下に伴って、不安・焦燥、幻覚妄想等の精神症状が現れたり、徘徊等の行動異常が現れることもあります(これらは認知症の周辺症状と呼ばれることもあります)。
 周辺症状に関しては薬物療法での改善が期待できるため、症状が強くて自宅での生活が困難なときは、精神科病院に入院して治療を行うことが多いです。
 以下では、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、血管性認知症の症状、経過、薬物治療について、個別に説明します。

アルツハイマー型認知症

 65歳以上で発症する晩発性アルツハイマー型認知症が主です。
 65歳以下で発症する早発性アルツハイマー型認知症は少なく、経過はより急速に進行する経過をとります。

症状、経過

初期:
物の置き忘れ、約束を忘れる、重複して物を買う等の物忘れが少し目立つようになります。また、貴重品を「盗まれた」と猜疑心を抱くこともありますが、日常生活は送れています。根気のなさや疲れやすさ等のうつ状態がみられることがあります。
中期:
その後、ゆっくりと進行して中期になると、日時や場所もわからなくなる等、認知機能が強く低下していきます。言葉での意思疎通が難しくなったり、服を着るような日常的な行為ができなくなったりするため、介助がないと生活できなくなります。また、徘徊、幻覚、被害妄想に基づく暴言・暴力等、認知症の周辺症状もみられるようになることが多く、介助者が世話を続けることも困難になってきます。
末期:
認知機能が著しく障害され、理解したり判断する力がなくなり、会話は成り立たず、家族が誰であるかもわからなくなります。身体機能も低下し、誤嚥性肺炎や転倒による骨折を起こしやすくなります。

薬物治療

 塩酸ドネペジル等、脳神経の活性化を促す薬剤で、認知機能の障害の進行を遅らせることが可能なケースがあります。周辺症状に対しては、各種の薬剤で改善が得られる場合もあります。

血管性認知症

 脳血管障害(脳出血、脳梗塞等)の原因となる高血圧や心臓病を持つ男性に多くみられます。
 脳血管障害によって、認知機能に重要な役割を果たす部分の脳神経細胞が障害を受けると認知機能の低下が起こります。

症状、経過

 初期症状として、記憶障害のほかに、頭痛、めまい、麻痺等の様々な身体症状が現れるため、比較的発症時期が明らかであるという特徴があります。
 脳は部位によって働きが違うので、障害された部位が受け持っている機能は低下しても、障害されなかった部位の機能は保たれている、「まだら状の認知症」状態がみられます。 また、脳血管障害後に抑うつがみられることもあります。
 血管性認知症は脳血管障害の発作が繰り返されるたびに、急に症状が進むことを繰り返すという経過をたどります。

薬物治療

 予防的治療対策としては、脳血管障害の発現予防と再発予防が中心です。
具体的には、脳血管障害の危険因子としての高血圧、糖尿病、高脂血症、心房細動、虚血性心疾患、喫煙、飲酒、一過性脳虚血発作等をコントロールしていくことです。
 中心の症状である認知機能障害に対しては、アルツハイマー型認知症と同様、薬物治療が有効な場合があります。
 抑うつには、抗うつ薬の投与が行われることもあります。

レビー小体型認知症

 50~70歳代での発症がみられることが多いです。
 アルツハイマー型認知症と同じような症状に加え、認知機能の変動(しっかりしているときと、しっかりしていないときの差が大きい)、パーキンソン症状(歩行が小刻みになったり、動作が緩慢になったりする)、幻視(いないはずの人物や動物の姿がみえる)等の症状を伴うことが特徴です。
 アルツハイマー型認知症に比べると、やや進行が早いといわれています。

薬物治療

 アルツハイマー型認知症と同様の薬物治療を行いますが、薬の副作用が出やすいという特徴があり、薬物による治療が困難な場合も多くあります。